Case05 ひろすき
第5話 / 全6話 · 1,181字 · 約3分
出演依頼は、突然だった。
「朝の情報番組です。生放送」
幣呂幣呂彦は、淡々と告げた。
「断る理由は?」
「ありません。断れば、“逃げた”になります」
埴輪武人は、頷いた。
スタジオは、明るすぎた。
政治を扱うには、不自然なほどに。
「今日は話題の“埴輪ニキ”に来ていただきました!」
司会者が、笑顔で言う。
「ニキ、って呼ばれるのはどう思います?」
「覚えてもらえるなら、構いません」
「余裕ですね」
「名前で入ってもらって、話で残る。それだけです」
軽い笑いが起きた。
その横で、腕を組んでいる男がいた。
ひろすき。論破王と呼ばれるコメンテーター的な人物だ。
「えっと、それって戦略として成立してるんですか?」
ひろすきが、淡々と口を開く。
「名前で注目されて、内容で残るって、
大体の場合、名前だけ消費されて終わるんですよ」
スタジオの空気が、少し締まる。
「はい。だから、今回は“消費される前提”で来ています」
「前提?」
「政治は、いつも消費されてきました。
それを、制度の話に引き戻したいだけです」
ひろすきは、少し首をかしげた。
「でも制度って、別に違法じゃないですよね?」
「ええ。合法です」
「じゃあ問題ないのでは?」
埴輪は、間を置いた。
「“問題がない”という判断が、
どこで、誰によって下されたのか。
それを説明する義務が、今はありません」
一瞬、ひろすきが黙った。
「……なるほど。
つまり、“決まった後”しか見せてないのが問題だと」
「はい」
「それ、視聴者的には地味ですよ?」
「だから、議会でやります」
司会者が、慌てて割って入る。
「えー、時間が――」
「最後に一つだけ」
ひろすきが、司会者を制した。
「じゃあ聞きますけど、
あなたが当選したら、何が一番変わるんですか?」
埴輪は、即答した。
「“誰が決めたか分からない”という言い訳が、
一つ減ります」
スタジオは、拍手もしなかった。
だが、次の話題にも進めなかった。
その夜。
「切り抜き、回ってます」
幣呂幣呂彦が言った。
《ひろすき、埴輪ニキに珍しく噛み切れず》
《論破芸が成立しなかった回》
《ネタ候補だと思ったら制度の話しかしない男》
「敵、見えましたね」
「誰だ?」
「“空気”です」
幣呂は言った。
「論破でも炎上でも終わらせられない。
だから、扱いづらい」
埴輪は、画面を見つめたまま言った。
「それでいい」